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東京地方裁判所 昭和56年(特わ)3577号 判決

本店所在地

東京都昭島市緑町二丁目一八番一五号

平田建設株式会社

(右代表者代表取締役平田幸男)

本籍

東京都福生市本町七二番地

住居

東京都府中市武蔵台三丁目四九番地の一一

会社役員

平田幸男

大正一二年九月一七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官江川功出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人平田建設株式会社を罰金四、〇〇〇万円に、

被告人平田幸男を懲役一年六月に

それぞれ処する。

被告人平田幸男に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人平田建設株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都昭島市緑町二丁目一八番地一五号に本店を置き、各種土木建築の請負、宅地造成事業、不動産売買及び賃貸等を目的とする資本金五、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人平田幸男は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人平田は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の外注費、材料費等を計上し、売上の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五二年一〇月一日から昭和五三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六、六六二万一、五九七円(別紙1修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月二八日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八、六七三万四、三一一円でこれに対する法人税額が四、一五八万九、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第二八九号の1)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額八、七〇六万九、六〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額四、五四七万九、八〇〇円を免れ

第二  昭和五三年一〇月一日から昭和五四年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億三、四五三万五、〇八九円(別紙2修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年一一月三〇日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五、五八〇万六、二三四円でこれに対する法人税額が七、九〇九万〇、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額一億六、五八〇万七、五〇〇円(別紙3ほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額八、六七一万七、四〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

一  被告人平田の当公判廷における供述

一  被告人平田の検察官に対する供述調書二通

一  被告人平田作成の申述書

一  検察官、被告人平田、被告会社代表者及び右両名弁護人作成の合意書面

一  橋本賢司、阿倍幸一吉井日出子の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の土地重課計算書

一  立川税務署長作成の証明書

一  東京法務局立川出張所登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書二袋(昭和五七年押第二八九号の1及び2)

なお、弁護人は、情状としてと断りながらも、被告会社は、本件事業年度において、計上もれの経費として政治献金や開発促進費等数千万円を支出している旨主張し、被告人平田及び証人佐竹毅は、当公判廷においてこれに添う供述をしている。しかしながら、弁護人の右主張及び右各供述は、いずれも政治献金等として支出した相手方はもちろん、時期、金額、支出時の状況等について全く不特定で漠然としたものであるばかりか、関係証拠によれば、被告人平田は、捜査段階において、簿外で支払った開発促進費や仲介手数料等についてかなり具体的に供述しているところ、いわゆる脱税経費を除き、いずれも経費として算入されており、他方、これ以外には簿外経費はない旨述べていること、証人佐竹は、本件査察開始後に被告会社を担当することになった税理士であって、右支出に関与したものではなく、査察後に被告人平田から聞いたことを供述しているにすぎないことなどが認められるのであり、以上によれば前記各供述はいずれも到底信用できず、弁護人の右主張は採用できない。

(法令の適用)

被告人平田の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯罪後の法令により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

さらに、被告人平田の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については右昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項により判示各罪につき同じく改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金四、〇〇〇万円に処することとする。

(量刑の事情)

被告会社は、被告人平田が個人で行なっていた建築請負業を昭和三七年一二月二一日に法人成りしたもので、設立以来殖産住宅株式会社の指定工事店として一般住宅の建築請負をしていたが、同五一年七月ころ同会社から独立し、主として建売住宅の建築販売を行ない、社員約一五人のほか専属の大工約三〇人を擁する株式会社である。ところで、本件は、被告人平田において、被告会社の業務に関し、二年度にわたり合計一億三、二〇〇万円余りの法人税を免れたというものであるが、脱税額が高額であるうえ、ほ脱率も五二パーセント強にのぼっている。被告人平田は、脱税の動機として、土地を仕入れる資金が欲しかったことや不況に備えて資金を社内に留保しておきたかったことなどを供述しているが、いずれも脱税を正当化するものではなく、むしろ、事業の発展のみを優先させる態度にこそ問題があったものといえる。更に被告人平田は、架空原価や架空経費の計上にあたり、経理担当者を介して、あらかじめ用意しておいた相手方の社名印や代表者印を勝手に使用するなどして支払いを仮装する約束手形を作成したうえ、これを取り立てて現金化し、また、売上除外に際しては、買主と通謀して裏契約を行なうなどしており、脱税の手段、方法も積極的で悪質である。以上によれば、被告人平田及び被告会社の刑責は、軽視できない。

しかしながら、被告会社では、昭和五二年九月期以降売上が急速に伸びたため、脱税を行なうようになったものであり、しかも被告人平田は、蓄えた資金を個人的な用途にあててはいないこと、本件では、土地譲渡利益に対する課税が五、八〇〇万円余り含まれており、そのため被告会社の実際所得金額の割には被告会社の脱税額が高額になっていること、被告会社では、本件を含む三事業年度にわたり修正申告を行ない、本税六、〇五〇万円、法人事業税二、〇〇〇万円余りなどを既に納付し、その余についても分割して納付する予定でいること、被告人平田は、本件により反省の機会を与えられ、経理体制を改めるなどの努力をしていること、被告会社に宅建業法違反の罰金刑がある以外、被告人平田には前科前歴のないことなどの有利な事情も認められ、そのほか本件に顕われた全ての事情を考慮して、主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 久保眞人)

別紙1 修正損益計算書

自 昭和52年10月1日

至 昭和53年9月30日

平田建設株式会社

〈省略〉

別紙2 修正損益計算書

自 昭和53年10月1日

至 昭和54年9月30日

〈省略〉

別紙3

ほ脱税額計算書

52.10.1~53.9.30

〈省略〉

53.10.1~54.9.30

〈省略〉

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